音匣マリア
水曜日は少し早めに家を出て、自分の車で菜月を迎えに行った。


着いてから家のインターフォンを鳴らすと、すっかり準備を整えていたらしい菜月が跳ねるようにして玄関から飛び出した。


おいおい、どんだけはしゃいでんだよ。


「昼飯は食った?」




俺は朝も昼も飯を食ってなかったから、遊ぶ前に何か食いたいと思ってた。


「お昼はさっき軽く食べてきたよ。蓮は食べてないの?」

「ん。先にまず何か食いに寄っても良いか?」

「いいよ」


菜月はこくん、と頷いた。


珍しいものが食べたくなって、アミューズメントパーク近くのインドネシア料理の店にふらりと立ち寄ってみた。


俺がナシ・ゴレン ランチを頼んで、昼を食べてきた菜月にはデザートのみの揚げバナナのココナッツアイス添えを注文してやる。

腹を減らしてても、味は然程旨いとは感じなかったのは残念だ。




腹が満たされたところで、アミューズメントパークからは少し離れた場所にある駐車場に車を停めて、歩いて移動した。


平日だからかどのフロアにも客はほとんど入っていない。


菜月が最初に遊びたがったのは、ホラー映画を再現した恐怖系のアトラクションだった。


[呪いのサイト]をシアターで観たゲストが、最後までグロい立体的な映像をひたすら観るという心臓に悪そうなアトラクション。


自分から「遊びたい」と言ったのに、菜月は途中から映像から目を逸らして震えていた。


……しかも隣に座った俺の腕をしっかり掴んで離さないし。

つーかこれ、別の意味で心臓に悪いんですけど。こんなにがっちり腕を掴まれてれば俺の理性がマジでヤバい。


……今ここで菜月を抱き締めても良いですか?





「はー!怖かったぁ!」

「よく言う。半分は目を瞑ってたくせに」


ホラーアトラクションから出た菜月が、照れ隠しにえへらと笑いながら頭を掻いた。

そんな菜月の脇を小突いて次は何で遊ぶかを尋ねると、「今度はクイズゲームに挑戦」との事。


俺にゲームで負けた菜月は、むぅ、と唇を尖らせて悔しがってた。



そんな顔もするんだな。




クイズゲームが終わったら、俺がやりたかったレーシングアトラクションへ。


ゲームとは言え本物そっくりに造った車の筐体に乗ると、フロントガラスにサーキットのコースがリアルに映し出される。


俺と菜月でコースバトルを選んだが、このゲームでも俺の勝ち。


「手加減してよぉ!!さっきもクイズで負けたのに!」


よっぽど悔しかったのか、菜月は地団駄を踏んできぃきぃ言ってる。


たかがゲームなのに、勝ち負けでくるくる表情を変える菜月を見ていると、飽きなくてついにやけてしまうよな。











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