音匣マリア
披露宴は滞りなく進んで、やがてブライダルフェアも終わりとなった。




あのバーテンさんは、うちの式場で一緒に働く女の子達に迫られていた。なんだ、やっぱりモテるんじゃん。


あんまりあの人には近づかない方がいいかも知れない。


「今日の菜月ちゃん、すっごく可愛いねー」



いつの間に横にいたのか、支配人や営業の人達が私に話しかけてきた。


「ドレスがいいからですよー、多分」

「いやいや、こんな可愛い新妻がいたらいいなー、なんて夢だよね。男の」

「ですよねー」

「是非夢で終わらせて下さいね」

「菜月ちゃん、ドレス着せてくれそうな人とかいないの?」



またその話かよ。



「残念だけど、いませんねぇ。でも、ウェディングドレスって素敵ですよね。も一回着てみたいです」



ドレスをひらひらさせて、くるんと一回転。ふわりと舞ったドレスが、まるで桜の花びらみたいで気分がいい。


「え。俺立候補してもいい?ドレスなら着せてあげるよ、何着でも」

「色打掛も似合いそうだよね。菜月ちゃん、着てみたくない?」



せっかくだけどお断り。だってみんな私の好みじゃないもんね。



「まだ私二十歳になったばかりですから。人生の墓場にはまだ入りたくないんで」



有り難い申し出は、鄭重にお断りさせて頂いた。









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