音匣マリア
少しだけ残業をして、着替えて会社を出た。

小柳さんが終わるまで、まだ1時間以上ある。それまでどこかで時間を潰しながら何か食べよう。

小柳さんとは蓮の店に一緒に行くのを約束しただけだし、食事まで一緒に行こうって言ってなかったし。



ブラブラと歩いて職場近くにあるイタリアンレストランに入った。


ランチメニューが人気の店で昼間はサラリーマン達で一杯になるけど、夜は女の子が一人で入っても怖くない雰囲気のダイニングバーになる。


席に着いてメニューを開くと、真っ先に目に飛び込んできた[ポテトとゴルゴンゾーラのグラタン]を頼んで携帯を出した。


あの後すぐ蓮に返信して、今夜は小柳さんと店に行くことを教えていた。

それに対してはがっかりしたような返事が返ってきたけど、気落ちしてるのは私も同じ。でも会社の付き合いだから仕方ないでしょ。



グラタンを食べ終え、雑誌を読んで時間を潰していると丁度いい頃合いの時間になった。



会計を済ませ、そこから歩いて15分ぐらいの場所にある蓮の店に向かった。



店に入ると、既に小柳さんが来ていてカウンターの席に陣取っているのが目に入る。


蓮は見当たらず、副店長の山寺さんが小柳さんの相手をしていた。


「遅くなっちゃいました?すみません」

年下なのに待たせた私が悪いから、一応謝りの言葉を小柳さんに告げる。


「いーよいーよ。菜月は何飲むー?」


カウンターの小柳さんの席を見れば、空になったグラスが既に3つはある。……これ一気に飲んだの……?


私は蓮がいつも作ってくれる[rape blossoms]が飲みたい…と言うより、このお店に来たらまずそれを飲まないと蓮に悪いから……。


注文に困って山寺さんを見ると、山寺さんには理解して貰えたようで、山寺さんが小さく頷いて店の奥に引っ込んだ。


その後すぐに蓮が出てきて、まず小柳さんに挨拶をする。



小柳さんは見ても分かるぐらいに上機嫌で蓮に話しかけていた。……なんか、面白くないな……。


小柳さんに蓮を一人占めされてるみたいでつまんない。


それに蓮も私の方を見ようとはしないし。


小柳さんにはどんどん作って飲ませているのに、私には一杯のお酒すら出してくれない。

これじゃ酷いよ。


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