音匣マリア
指定したコーヒーショップに入ると、山影さんは既に席に着いていて、エスプレッソを無表情で飲んでいた。


「……すみません、遅くなりました」


私から誘ったわけではないけれど、一応遅く来たんだからとやむを得ずお詫びする。本意ではないのになぁ……。


「それで、真優さんがどうしたんですか?朝の話だと、私達にも関係がある、みたいな感じでしたけど……」

「うん。それなんだけどね。真優は今、君の彼氏を気に入ってるみたいだね」


それは気づいてる。真優さんの蓮に対するスキンシップは、どう見ても度を越えているし。


「あいつは気に入った男には際限なく積極的に迫るんだ。迫られた相手の男の態度は、極端に分かれるけど」


極端に分かれるってどういう意味?


「真優がそんなだから、まずどの男も本気にはならない。真優を遊び相手として適当に体だけの付き合いにするか、警戒して無視するか、どっちかなんだよね」


本気で付き合ったら後が怖そうなタイプだもんね、真優さんって。


「……で、ここまで言えば分かるだろうけど、真優は俺がいても他の男と浮気してるんだよ。それも体の付き合いの男も入れれば、6人ぐらいはキープしてるみたいだ」


………6人!?そんなに…。しかもそれはもう、浮気なんてもんじゃないんじゃないの!?


「あのマンションの部屋にも俺がいない間に他の男を何人も連れ込んでる。だから、ああいう喧嘩になってた」


気持ちは分かるけど、叩いたりするのは……。

それに、山影さんがいるのにそんな事をする真優さんが、山影さんを大事にしてるとは言えないでしょ?だったらなんで、別れないの?この二人。


そんな関係だったら、恋人としては終わってるよ?末期じゃない?


「君の言いたいこと、分かるよ。真優とどうして別れないのかって言いたいんだろ?」

「まあ、普通はそう思いますよね?そんな事されたら……」


私だったら耐えられない。

自分という相手がいるのに浮気だなんて。絶対許さない、だろう。


「真優はさ、あんな奴だから、同性の友達がいないんだ。仲良くなった女友達の彼氏でさえ、あいつは寝とったりしてきたから信用してくれる友達なんていなくなっちまった。それにあいつは他の女の子を小バカにする癖がある」


……何なの、あの人。友達の彼氏にまで手を出すとか、人を小バカにするとか。

対人関係とか友人関係とか、瀬名さんは親として教えてないの!?


「……山影さん、は、瀬名さん…真優さんのお父さんには会ったこと、あるんですか?」


不意に私の口から出た名前に、山影さんは驚いたようだ。

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