† Lの呪縛 †
オリヴィアはバルコニーに出て、後ろ手でドアを閉めた。



「いいの? 閉めちゃって」

「あ、うん……何か、害のなさそうな人だから……」

「あははっ、変わった子だね」



男性はお腹を抱え、大口をあけ笑っている。


漆黒の髪の毛に、同じく漆黒の瞳。


だが肌は真っ白で、今にも夜の闇に飲み込まれそうなほど透明感がある。



「僕はヒューイ。 親しい者たちはみんなそう呼ぶよ」

「私はオリー……親しい人は私の事をそう呼ぶわ。 もう、そう呼んでくれる人は居なくなってしまったけど……」

「じゃあ僕が呼ぶよ。 宜しく、オリー」



オリヴィアは照れ笑いを浮かべた。


オリヴィアの事をそう呼んでいたのは、シャロンとキースだけだった。


久しぶりに人から“オリー”と呼ばれ、懐かしさで胸が一杯になった。



「ここはオリーの部屋?」

「そうだよ」

「まさかこの部屋を使ってるとは思わなかったよ。 あのさ、たまにここに来てもいいかな?」

「いいけど、ここで何してるの?」

「星を見てるんだ。 ここに座って見る夜景が一番落ち着くんだよね」



オリヴィアは遠くの星空に視線を移した。


こうして夜空をゆっくり眺めるのは、いつぶりだろうか。


レッドフォード家に来てからは慌ただしく時間が過ぎ、眠れない日なんてなかった。


だからバルコニーに足を踏み入れ、景色を眺める事などなかった。




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