天使の歌

今、近くで神力が使われている。

戦闘が起こっている。

キュティは慌てて立ち上がった。

(誰か襲われてるの?助けに……。)

走り出そうとして、キュティは足を止めた。

(……ほんとに……行くの?)

赤の他人を助けに?

村を襲った人達かも知れないのに?

誰も傷付いて欲しくないと言う思いと恐怖に板挟みになり、思わず口に手を当てたキュティの脳裏に、懐かしい声が聴こえた。

<……キュティ。>

(……お母さん……?)

<人に優しくしなさい。人の命を大事にしなさい。>

それは、亡き母の言葉だった。

(……お母さん……。)

キュティが物心 付いた時、隣に居たのは母だけだった。

人間の妻を めとった罪を問われ、父はキュティが生まれて直ぐ、殺されてしまったらしい。

女手一つで育ててくれた母も、キュティが10歳の時に、病気で亡くなってしまった。

その母の、優しい言葉が聴こえる。

キュティの瞳から、涙が零れ落ちた。

混血(ハーフ)として生まれた事を恨んではいても、人間である母を恨んだ事は1度も無い。

キュティにとっては、かけがえのない存在だ。

(……私……。)

行かなきゃ。

キュティは耳からヘッドホンを外し、首に掛けると、神霊(みたま)が集められている場所へ走り出した。

(私には もう、居場所が無い。何も無い。)

だから せめて、お母さんとの約束だけは。
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