天使の歌
走り出して5分も経たない内に、キュティの目に沢山の死体と、2人の姿が見えた。
1人は30半ばの天使で、地面に座り込み、もう1人を震えながら見上げている。
見上げられている者は、20歳そこそこくらいに見える少年だった。
風に靡く銀髪、一房の金髪。
蒼い瞳は冷たく男を睨んでいる。
少年は左手を男の頭に翳す。
「……ひぃっ……!!」
男が小さく悲鳴を上げた。
(止めなきゃ!!)
キュティは考える間もなく飛び出すと、銀髪の少年の、伸ばされた左腕に抱き付いた。
「止めてっ!!」
「なっ……!?」
ふいを突かれた少年はキュティを見ると、空いている右手で顔の右半分を隠した。
その不可思議な動作には気付かず、キュティは少年の腕を押さえたまま、彼の顔を きっと睨む。
「どっちが悪いのか解んないけど、傷付けるのは駄目っ!!」
その時。
地面に座り込んでいた天使が さっと立ち上がり、翼を広げ、空に舞い上がった。
「あっ……。」
銀髪の少年は追おうとして……間に合わないと悟ったのか、足を止めると、キュティを乱暴に振り払った。
「きゃっ。」
キュティは思わず目を瞑る。
少年はマントのフードを深く被ると、キュティを睨んだ。
「……お前の所為で逃げられちまったじゃねェか。」
少し掠れた、耳障りの良い声。
「あ、あの……御免、なさ……。」
恐怖を感じて、キュティは口籠もる。
彼の蒼い瞳には、殺伐とした何かが在った。
「あっ。」
しかし直ぐにキュティは、ある事に気付き、恐怖を一瞬で忘れ去った。
「怪我してないですかっ!?」
「っ!?」
またしても ふいを突かれた少年は、伸ばされたキュティの手を避けようと、後ろに後退る。
「止めろっ!!」
その時、風が少年のフードを攫った。
「っ!!」
少年は慌ててフードを押さえようとしたが、風は悪戯を するかのようにフードを動かし、巧みに彼の手を避けた。
少年の顔が、キュティの瞳に飛び込んで来た。