天使の歌
「……いつ発つんだ?」
ある日の夕方。
夕食を作っていたセティが、振り向かずに声を後ろに投げ掛けた。
料理をするセティを ぼんやりと見つめていたキュティの肩が、びくっと跳ねた。
「……ぇ……?」
キュティは思わず、間の抜けた声を出してしまう。
「……だから、いつ迄 俺と一緒に居るのかと訊いているんだ。」
セティは尚も、料理を する手元だけを見つめている。
「…………。」
「村を、襲われたと言っていたよな?」
キュティが黙っていると、セティは そう尋ねて来た。
その声に哀しみを感じて、キュティは思わずセティの顔を見上げた。
しかし、振り返った彼の顔は、いつもと同じ、無表情だった。
「……そう、だよ……。」
「それは つまり、帰る場所が無いと言う事だよな。」
見たくない現実。
解っていながら目を背けていた、けれど いつかは見なければいけない現実を突き付けられて、キュティは ぐっと唇を噛んだ。
「……うん。」
やっとの事で頷くと、セティの雰囲気が益々 冷たくなったのを感じた。
「……行くあては在るのか。」
「…………無いよ……。」
「無くて、どうするつもりなんだ。」
「……解んない、けど……。」
キュティは出ない声を絞り出す。
「……答える前に、教えて欲しいの。」
「…………。」
キュティは、セティの瞳を、真っ直ぐに見つめた。
「セティは、地界に行った事、在るの?」