天使の歌
「……何、これ。」
ネスティの後を追い掛け、村の中心部迄 走って来たキュティは、ぽつりと呟いた。
其処は、最早 村と呼べる場所では無かった。
壊された家。
焼かれた木。
殺された人。
今迄 見た事が無い光景。
それ故に今一 実感が湧かず、ぼんやりする頭のまま、キュティは、辛うじて被害を免れているネスティの家の扉を開けようとした。
(……開かない。)
普段、ネスティの家は鍵を掛けていない。
一体、何が起こっているのだろうか。
「ネスティ!!開けてよ!!大丈夫なの!?」
中にネスティが居るのか解らなかったが、兎に角 扉を叩く。
その時。
「出て行け!!」
悲鳴のような怒声が、家の中から飛び出した。
今直ぐ走り去りたい。
これ以上、此処に居ては いけない。
何かがキュティの頭の中で警鈴を鳴らす。
「……ネスティ……?」
それでもキュティは、義兄の名を呼んだ。
「お前の所為で皆 死んだんだ。」
(……聞きたくない……。)
「早く出て行け。」
(……聞きたくない……。)
「お前が この村に居なければ、こんな事には ならなかったんだっ!!」
(……あぁ……。)
ネスティも、“皆と同じ”だったんだ。
キュティの胸の中に、冷たい確信が生まれる。
今迄ずっと、何故ネスティが自分を差別しないのか、解らなかった。
こんな、何の取り柄も無い自分に、何故 優しくしてくれるのか。
きっと、母親の手前、自分を侮蔑する事が出来なかったんだろう。
結局。
私は“独り”なんだ。
胸が痛くて、苦しくて、溢れ出る涙を必死に堪えながら、せめて今迄 優しくしてくれた義兄の、最後の願いを叶えようと、キュティは脇目も振らずに村を走り去った。