紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
2人は、近くにあった聖歌台の影に身を潜める。
コートニーは恐怖で暴れる心臓と、乱れた息をなんとか抑えようとしていた。
(こんなところで、捕まるわけにはいかない……)
今捕まったら、その先にあるのは──
絶望、のみだ。
それでも無情に近づいてくる足音。
2人は息を殺し、敵がこちらに気づかないことを願っていたが……。
──グワァ!
「っ!!」
突然、言葉にならないうなり声が聞こえ、目前に敵の男の顔が現れた。
その顔は青白く、髪は生気を失って雑草のようにぽつりぽつりと生えているだけ。
肌は土気色で、ハリはなく、ところどころ破れた風船のようにめくれ上がり、間から筋肉の筋が見える。
汚れてぼろぼろの服を着て、なんとか人間の形を保っている『それ』は、生臭い息を吐きながら、だらしなく開けられた口から涎を垂らした。
「汚いわねっ!」
コートニーは、その口から引かれた糸が自分に落ちる前に、『それ』の腹を思い切り蹴飛ばす。
『それ』の体がぐらりと後ろに揺れた瞬間、コートニーは聖歌台の影から、他多数の敵の前に躍り出た。