リンゴの赤に誘われて
 ガチャリ……
 
 一応、いつ彼氏が来てもいいように部屋は整えてある。
 彼は、私に怪我を負わせた本人で……罪の意識から私と付き合っている。
 私の事を好きなわけじゃない。
 その証拠に、私は彼氏から抱かれた事が一度も無いのだ。

「迷惑じゃなければ、これ、キッチンまで運びますよ」

 私に対して”普通に”優しくしてくれる事にも心がときめいた。

「ありがとうございます。コーヒー淹れますから少し寄っていってください」

 ひょんなきっかけでお隣さんと顔を突き合わせてお茶をする事になった。
 コーヒーを飲みながら談笑したりして、何だか本当の恋人と過ごしているみたいな気持ちになる。

「恵美さんは恋人いるんですか?」

 唐突にこんな質問をされて、私は戸惑った。
 キッチンに置いてあった2本の歯ブラシをチラッと見ていたのを思えば、この質問は確信的なものだった。

「付き合っている男性はいるけど、恋人かどうかは分からないわ」
「なんですか、それ」

 本当に分からない。
 恋人だったら”恋”をしているはずだ。でも、私たちは歪な関係なのだ。
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