桜廻る
「…その、服装は…?」
「……。普通の、着物だが」
「……」
ぽかんと、固まる。
男の歳は多分、十七か十八くらいだろう。
しかし、それにしても奇怪な格好をしていた。
黒くて、所々小さな模様がついた着物。
背中にあるのは、何が入ってるか想像もつかないカゴ。
頭には竹で出来た帽子のような物をかぶっている。
…まさに、昔の人、みたいだった。
「まぁ、俺の事はいいだろう。いつの間にか、このよく分からねぇ場所に来ちまったけど、こんな所で時間を潰してる暇なんてない。天然理心流の試衛館(しえいかん)に、これから行く所だったんだ」
「し、試衛館…?」
聞いた事もない単語。
それに首を傾げると、男は口角を上げる。
「まさか知らねえのか?最近、北辰一刀流と並んで有名になってきている流派だぞ?今までもちょくちょく試衛館に行っていたが、今日から俺もあそこの一員だ。
…あ、そうだ。これ、やるよ」
「……?」
男はそう言うと、背中にあるカゴを一旦地面に置いて、中から何かを取り出した。