王に愛された女




 ガブリエルはオラシオンの瞳をしっかりと見つめ、頷いた。

「そうだよね。怖いことなんかないよね」

 あぁ、とオラシオンが肯定する。

「俺たちは、試練を乗り越えて幸せを手にした。怖いことなんかないんだ。あるものか」

 ガブリエルはオラシオンの腰に手を回した。

「うん、そうよね。それに、」

 そこでガブリエルは言葉を区切った。

 オラシオンが不思議そうな顔をする。



「…それに、オラシオン…あなたがいるものね」

 オラシオンが数回瞬きを繰り返した。

「…オラシオンと一緒なら、怖くなんかないよ」

 クリスティーヌが嬉しそうに笑う。

 草原から見える王宮の、夫婦樹の枝が風に吹かれて少し大きく揺れた。

 枝から舞い落ちる葉に、暫くガブリエルはみいってしまった。

 舞い落ちる葉の儚さが、なんとなく自分たち人間の小さな営みのように見えた。

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