王に愛された女





 ガブリエルは草原に座った。

 クリスティーヌもそれに倣って座る。

「…オラシオン。私ね、今でも時々思うことがあるの」

 まだ立ったままのオラシオンに、ガブリエルは声をかけた。

「ん?」

「私たち、本当はまだ十年前にいて、死のうかどうかをずっと考えているの。死を待っているの…。そんな気がしてならない」

 怖いよ。

 ガブリエルが呟くと、オラシオンが草原に腰かけた。

「大丈夫だ、ガブリエル。それは気のせいなんだ」

 オラシオンの大きな手が、ガブリエルの華奢な肩を包み込む。

「オラシオン…」

「もう十年経っているんだから。今のこの瞬間は夢なんかじゃない。現実だ」

 怖くなんかないんだ。

 オラシオンが耳元でそう囁く。

 ガブリエルは目を細めた。

「…怖いことなんかないさ」

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