天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
4、わたしが気になる?

 沼岡は、きっともって橘が誰が好きかを知っている。

 が、俺が橘から直接そのことを聞かされているとは知らないのだろう。

 あんなふうに俺を呼び止め、本人を目の前にして何かを示唆するみたいに言葉をかけるからには。


 ―――ありえない。


 沼岡は橘の親友だ。中学で知り合った。

 いつもべったりと一緒にはいないけれど、お互いを尊重し、頼りにしている間柄だ。


 橘は沼岡には余さず胸の内を打ち明けているはずだ。



 移り気とか、ありえない。一途でしょ。



 沼岡の言葉には偽りを感じない。

 純粋に友だちのことを思い、おかしな弊害で友が二の足を踏んでいるのに気を揉んでいる。



 彼女は俺に、


 気づけと言いたかったのではないか―――。



(きっとそうだ……)


 ……橘の想いが揺るぎない真のそれだと確信して、その夜。

 和也はろくに口を利けぬまま、部屋で枕を抱きしめている。


(どうするよ、俺……)


 明日明日、冬休みがやってくる。

 だからどうということではないけれど、それまでには決着をつけた方がいいような気がした。


 けじめ、とでも言おうか。


 ずるずると返事を引き延ばしにするのは失礼だし、

 橘のあの性格でも、なんらかの区切りのないまま俺が我欲に負けて流されるたびに、いたずらに気を持たせるのは酷だろうと、今になって思う。

< 77 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop