【短編集】ライン


「楽器の掃除をね、していたんだ」


今年ももう吹き納めだったからね。



僕の応えに彼女は、そう、とだけ返した。




「楽器、大切なのね」


呆れたように問われたので、僕は意地悪く尋ねた。


「引退したはずの狭間さんはどうしているの?」




「今年の、ここからの景色も見納めだから」



貴方と一緒よ、と続けて、彼女は音楽準備室の窓を閉めてしまった。


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