トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐


浪瀬らしくないミスだ。


今までの彼の行動パターンからいって、外で会うなんてリスクのあることは滅多なことではしないはず。



秘密の恋を楽しむように装い、搾取する生き物だったはずでしょう?



外面だけは良かったのにな。




ちらと浪瀬をみると、両頬に綺麗なもみじが咲いていた。


一夜明けても残ってるなんて、相当強い力ではたかれたのね。




現場を目撃した友人に反抗しない浪瀬。


どうでも良いような顔しちゃって、あんたには死活問題でしょうに。




やがてチャイムが鳴り、教師が来る。


本日の授業も、今までと変わらず始まった。







時は過ぎ、昼休み。



ローテーションで回る空き教室から中庭を見下ろす。



いつものようにドラマや教師への愚痴をこぼす者も少なくない。


が、圧倒的に多いのが、浪瀬忍の噂話だ。




かつて、校内5指に入るといわれたイケメンの面影はなく、彼の評判は面白いほどに落ちていた。


内緒で付き合っていたという女生徒たちが口を割り、どんどん余罪が出てくる出てくる。



中には、明らかに作り話であろう過激なことを言いふらす者までいた。




たったひとりの生徒に対してこの噂の広がりよう。



さすが、校内5指の顔だけイケメン。






ガラガラと引き戸が動く。



「よぉ」



「……やあ、有名人」




私以外誰もいない教室に、時の人、浪瀬忍が入ってきた。
< 134 / 252 >

この作品をシェア

pagetop