トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
翌日の昼休み。
「よお」
「…………貴様という奴は………………」
目の前には、お馴染みとなった浪瀬。
ふたりきりの空き教室で、私の隣の席に座る。
他にも、いっぱい、席、空いてるのに、なんで、隣、座るかなぁ?
この思い、伝われ。
とばかりに恨めしく見るのだが、いかんせん奴は思い違い野郎だった。
「そんな熱視線向けてくれちゃって。俺様に惚れたか?」
「これが、惚れた男に向ける目だと?」
「愛情の裏返しだろ?」
嫌よ嫌よも好きのうちってか。
「額面通りに受け取りなさいよ。嫌よ嫌よは嫌のまま。昇華するなどありえない」
「そーいや、昨日のどうだった?」
急に話題を変えて来たね。
昨日のっていったら、職員室潜入の件でしょう。
「コソ泥野枝は、なんか掴めたのか?」
「コソ泥違うし。…………ヒヨコさんの本名がわかったわ。字が独特だったから、間違いないと思う。そっちは、テストの問題手に入れられたの?」
「定期テストより優先するもんがあったからな」
「なーに?詐欺師さんは、失敗したことの言い訳?」
「野枝ちゃーん、そんなこと言っちゃっていいのかなー?」
浪瀬が二本の指で挟んだ戦利品を、私の目の前で揺らす。
「これ、なーんだ?」
空色の封筒、表には『星さんへ』とある。
「それは………!」
「おっと」
手を伸ばすが、それを遠ざけられた。
顔が彼の胸にぶつかったところで。
「………」
あまりの鮮やかさに、一瞬、何が起きたのかわからない。
腰の締め付けが強くなったところで我に返った。
「ちょっ、何すんのさ!」
右手は高く、浪瀬と恋人つなぎ。
上体は密着し、浪瀬を跨いで座っている。
手紙は、奥の机上に置かれていた。
推測するに、伸ばした手を掴まれ、引っ張られ、抱きつくような形になったのでしょうが。
「このくらいのご褒美がないとやってらんねぇよ」
「どの口が言うか、いつも押し売りしてくるくせに」
「テストの問題を犠牲にしたんだぜ?」
「どうせ他にも聞く相手がいるんでしょ、いますよね!」
「どうしてお前はいつも、俺様のアピールポイントをぶち壊すこと言うかね」
「事実でしょ」
「事実だよ!」
顔先15センチの言い合い。
売り言葉に買い言葉。
浪瀬は大袈裟に肩を落とした。
「でも、野枝の役に立ったことには変わりないよな」
「……………まぁ……ね………………」
ものすんっごく不本意だけど。
「参考までに、どうやって手に入れたの?」
「えーと、個室を出て職員室に戻ったら、先生のバベルの塔が崩れて、直すの手伝ったんだよ」
浪瀬もあれをバベルの塔と呼んだのか。
てか、やっぱりあれ、崩れたのね。
突貫工事はまずかった。
「そん時、たまたま見つけて、失敬してきた」
「どっちがコソ泥よ?」
崩れた隙に盗ってきたって、ある意味私と浪瀬の共同作業。
職員室潜入もそうなんだけど、なんかヤダー。
「ちなみに、こんなものもあるぜ」
次に見せてきたのは、花柄の封筒をふたつ。
表には『ヒヨコさんへ』の文字。
「……………っ!」
背中がゾクゾクする。
口角が上がる。
浪瀬の奴、なんて事をしてくれたんだ。
「最ッ高だね」
「だろ?」
「だけどここで疑問」
「何でも言ってみな」
「テストの問題を犠牲にしたのは嘘だね」
「…………てへ」
可愛くねぇんですよ。