キャンディ
少女から・・・・・・
 そこには体育座りをしている少女がいた。黄色いワンピースを着ていた。僕はおそるおそる近づいた。近づくにつれ、甘い匂いが彼女から漂っていた。
「大丈夫?」
 僕は彼女に声をかけた。しかし反応はなかった。もう一度、声をかけたが結果は同じだった。
 なので僕は待つことにした。こういうときは忍耐だと思った。なにがなんだかわからない状況になったら〝待つ〟それが僕に出来る唯一の選択だ。
 それから僕は数十分、いや、数時間その場にいた。空を見上げ、荒れ果てた畑を見回し、靴にこぶりついた泥を手で払った。それを何回か繰り返した。そうすることしか僕にはできなかった。
 少女は寝ているのだろうか?生きてることは間違いない。肩が上下して呼吸をしていることは感じられた。
僕も眠くなった。少女と同じように体育座りをし、目を閉じた。
「ん、うぅ」 
 とうなり声が聞こえた。
 僕は顔を上げた。
 少女は立ち上がり、僕を見ていた。
「やっぱり、こうなったのね」
 少女がそう言い、ワンピースに付着した泥を払った。
「こうなったとは?」
 僕はきいた。
「ミツバチがいなくなったでしょ?」
 僕は軽くうなずいた。
「ミツバチもストレスが溜まってるのよ。逃げ出したくなるわ。私はそれを知ってる」
「知ってる?」
 少女から漂う甘い匂いはハチミツの香りに似ていた。
「人って起った後に気づくのよね。事の重大さに」
「それはいえてる」
「これあげるわ」
 少女がどこから取出したのかはわからないが、キャンディを僕にくれた。
「君は誰なの?」
 僕は彼女から手渡されたキャンディを口に放り込み舐めた。ハチミツの味がした。
「それはいずれわかるわ。それよりも人はあなただけ?」
「そうだよ。みんな別の土地へ移って行った。ミツバチを探しにいったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「ミツバチはもういないわ」
 彼女は空を見上げた。僕の勘違いでなければ、彼女の目元から涙が一雫流れた。その涙も甘いのかもしれない。
「ミツバチが必要でしょ?」
 彼女は言い、「うん」と僕はうなずいた。
「じゃあ、手伝って」
 そう言って、彼女は畑に何かを蒔いた。
「それはなに?」
「あなたにさっきあげたキャンディよ。これはミツバチの大好物なの」
 僕は彼女からキャンディを手渡された。
 少女と同じように僕も畑にキャンディを蒔いた。キャンディが偏らないように、均等に蒔いた。僕はそういうことにこだわるが彼女はこだわらなかった。
 辺りに甘い匂いが広がった。
 こんなことをして何が変わるのだろう?
 でも何か行動を起こさないと何も始まらないのかもしれない。
「明日を待ちましょう」
 キャンディを蒔き終えた彼女が当然のようにいった。僕もそれに従った。
 ずっとここにいるわけもいかず少女を僕の家に案内した。
 家に入るなり少女は、水を飲んだ。そこには迷いはなかった。水を飲むということが彼女にとって重要な一部だというように。
「水分は重要ね。人も動物も植物も。全てに感謝しないと」
 少女は微笑んだ。それは星のように輝きを放った笑顔だった。
 その後、僕らは眠りに入った。少女のために僕は簡易ベッドを物置から出した。彼女は喜んでいた
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