きみに会える場所~空の上ホテル~
皆で乗り込むと、エレベーターはぎゅうぎゅうだった。

パネルには「上」と「下」の二つしかボタンがついてない。

カナタさんが「上」を押した。エレベーターのドアが閉まった。

しゅううと不思議な音がして、エレベーターが上がって行くのが感覚でわかった。何となくみんな黙っていた。

やがてエレベーターは止まり、ドアが開いた。

私はそこに広がる光景に息を呑んだ。



エレベーターのすぐ向こうには、上りのエスカレーターがあった。他には何もない。青い空と白い雲以外は。

「それじゃあ、みんな世話になったね。カナタさん、サキちゃん、15年間も置いてくれてありがとう。レイもいい男になるんだよ。美緒ちゃん、短い間だったけどありがとうね」

奈美ばあちゃんは、一人一人の顔を見ながら声をかけた。

「こちらこそ、長い間お世話になりました。料理、すごくうまかったです」

カナタさんがぺこりと頭を下げた。

「お世話になりました」
「お世話になりました」

サキさんとレイも深々と頭を下げる。

「お世話になりました」

私も頭を下げた。おせんべい、ありがとう。手作りの味、心にしみました。短い間だったけど、楽しかった。

「皆さん元気でなあ。うちのばあさんがお世話になりました」

東条茂人さんと奈美ばあちゃんは、エスカレーターに乗った。エスカレーターは二人をあっという間に遠くへ運んでいく。

長い長いエスカレーターの先はかすんで見えない。でも、ところどころに踊り場みたいなのが見える。いくつものエスカレーターが合流して、一つになっている。

それは枝のようにも、川のようにも見えた。
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