きみに会える場所~空の上ホテル~
カナタさんも、サキさんもつらそうな顔をしている。

カナタさんは、ふうっと大きく息をついてから話を続けた。

「予約リストに入ってるのは、名前だけじゃない。その人の家族関係や、どういう状況でここに来ることになったのか、どんな人生を送ってきたのか、いろんなことが書かれてる。それを読んでわかったのは・・・・・・」

カナタさんは少しだけ言いよどんだ。

「その人は全然いい母親じゃなかったってことだった。もう少しその人がいい母親だったら、ヒカルとアカリがこんなに早くここに来ることにはならなかっただろう」

声が震えてる。カナタさんの目に涙はない。これは怒りだ。それもすごく激しい怒り。

「レイの母さんと奈美さん、おれとサキとでどうしたらいいか話し合った。ヒカルとアカリを母親に会わせることは絶対に避けたかった」

カナタさんはレイをまっすぐに見た。レイの顔は青白いままだ。

「『私がこの子たちを連れて行きます』。君の母さんはそう言ったんだ」

「だけど、ここまでたどりつけたんだから、その子たちだけで行くことだってできたんじゃ・・・・・・」

何もレイのお母さんがそこまでしなくたって。レイをここに残してまでついて行かなくたって。

私の言葉に、カナタさんは首を振った。

「ここまでの道のりは、人によって違うんだ。あの子たちの場合は目を覚ましたらもうここの玄関あたりにいたんじゃないかな。それに、レイの母さんは責任感の強い人だった。子供たちを二人だけで行かせたりはしない」

それまで黙っていたサキさんが口を開いた。

「レイ、あなたの母さんは私たちにあなたを託したのよ。この子をお願いしますって。ここにはあなたを守る大人が少なくとも三人いた。でも上がどういう状況かはわからなかった。上からここへ戻ってきた人はいないから。だからお母さんは二人について行ったの。そういうことなのよ」

お母さんはレイを捨てて行った訳じゃなかった。レイはちゃんとお母さんに愛されて育ったんだ。

お母さんだけじゃない。カナタさんもサキさんも奈美ばあちゃんも、みんながレイの成長を見守ってきたんだ。だから、レイはぶっきらぼうで毒舌だけど、心根の優しい人に育ったんだ。

私は棒立ちになっているレイをそっと見つめた。


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