祈りの月
 大きく息を吐き出し、机の上の水槽へと目をやる。

 もし、自分やドゥリーや、他の研究員たちが地球へ帰ってしまったら、この海はどうなるのだろう。

 汚染を救うための研究は止まる。

 ――そうしたら。

 この海は、今のまま、毒を含んで在り続けるのだろうか。

 海に住む、生き物たちを苦しめながら。

 少しずつ汚染して・・・・・・。

「海へ還りたいか・・・・・・?」

 ゆらゆらと漂う魚たちに問いかける。


 ――答えは、ない。


 それでも、カイは訊きたかった。やはり還りたいのか。
 
 どんなに汚れてしまっていても。
 
 自分にとって死を与えた場所でも。

 生まれ育った、海へ・・・・・・。

 還りたいのか。

 それが――カイには分からなかったのだ。
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