祈りの月
「あとの片付けは俺がやっておくよ。先に帰れよ」

「いいのか?」

「ああ・・・・・・俺は魚たちを」

 カイは、机の上の水槽に目をやった。

「海へ還してあげないと」
「・・・・・・そうか。そうだよな」

 ドゥリーは納得したように何度か頷く。

「朝、船を出そう」

「了解。じゃ、また明日な」

 ドゥリーは、片手を上げ、短く別れの言葉を口にすると部屋を後にした。

 残されたカイは、白衣を脱いで、椅子の背もたれに寄りかかるようにして体を預けた。

 全身を、脱力感に覆い尽くされたようだった。

「汚れた海、か―・・・」

 嘆息まじりの言葉が、ぽこぽこと水音の響く部屋に消えていく。

 この、美しい惑星の、美しかった『原始の海』を、誰が汚してしまったのか、カイは良く知っている。

 いったい誰が『原始の海』と呼ばれる太古から在り続けた海を汚したか。

 吐き気がするほど、良く、知っているのだ・・・・・・。
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