紙ヒコーキが飛んだ
始まりのヒコーキ
 太陽が真上に昇りかけたころ、中学二年の綾子は学校の屋上へ辿り着いた。そこには目当ての人物がいた。
「あっ!いた、いた。また授業サボって、もう給食の時間だよ、星矢!」
「ああ、もうそんな時間か」
 目をこすりながら星矢は欠伸をした。
「ああ、じゃなくてさ。ちゃんと授業受けなよ。そもそも、なんで授業受けてないのに私より成績いいわけ?」
 綾子は腹立たしい気持ちにさせられた。星矢は、学年トップの秀才である。だからといって、それを鼻にかけることもなく、どこか飄々としていて、やる気がない。だからか、他の先生達も、「星矢君なら、大丈夫だろ」と半ば楽観的な態度を崩さない。なにが大丈夫なのだろう?と綾子は思う。たしかに勉強も大事だけど、仲間との触れ合いも大事なのではないかと彼女は考えるが、それは勉強ができない、といういい訳にも聞こえる自分が歯がゆい。
「なにかいいなさいよ」綾子が応酬し、「給食冷めるわよ」と言い足した。
「綾ちゃん。勉強はほどほどでいいんだよ。僕は人を救いたいし、給食は冷める前に食べたい」
 校庭を見つめていた星矢が綾子の方を向いて白い歯をこぼした。その笑顔に彼女は、なんといっていいかわからない気持ちにさせられた。
「言ってる意味がよくわからないんだけど、人を救いたいなら、お医者さんになればいいじゃない」綾子は早口で捲し立て、「まだ星矢の分の給食はよそってないから大丈夫」と言い足した。
「医者じゃ救えないところだよ。ここだよ」
 星矢は自分の胸を人さし指で指した。太陽が星矢を照らし、仏のようだ、と綾子は思った。
「胸?」綾子が訊いた。
 星矢は首を横に振り、「こころ」と、一語一語噛み締めるように穏やかな口調で言った。
「なにそれ?そもそもどうやって?医者でいいじゃない」
 綾子は矢継ぎ早に責め立てた。上杉謙信の啄木鳥戦法を思い出した。ちょうど四限目が歴史の授業であり、学びを活かせた、と綾子は満足げだった。それが伝わったのか、
「綾ちゃん、何でニヤニヤしてるの」と星矢に指摘され、綾子は頬が熱くなった。
「でね」と星矢が話題を変え、「そんな大それたことじゃないんだ。これだよ」
 制服の内ポケットから、綺麗に折り目がついた紙ヒコーキを星矢は取出した。その紙ヒコーキは白色の折り紙を使用していたからか、太陽に反射しオレンジ色に光っていた。
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