紙ヒコーキが飛んだ
出会ったヒコーキ
 早紀は駆けた。男の人影が見えた場所に到着した。それは家ではなかった。事務所?商店?その疑問はすぐに解決した。
『紙ヒコーキ』
 と看板があったからだ。お店なのだろう。錆びれたシャッターが閉められている。
「すみません」と早紀は声を上げた。
 返事はなかった。しかし、ガラガラとシャッターが上がった。手動でなく自動だった。どうやら細かい部分は洗練されているらしい。
「どうも」と男が言い、「星矢です」と名乗った。星矢が、寒いから中へどうぞ、と早紀を促した。彼の振る舞いは、あたかも早紀がこの場所へ来ることを予期してたかのようにスムーズだった。
「ここは、いったいなんのお店ですか?」
 早紀が訊いた。店に入り、目の前にガラスのショーケースがあった。その上には様々な形をした紙ヒコーキが置いてあった。動物や何かのキャラクター、もちろん飛行機の形をしたものまで様々だった。
「見たまんまです。紙ヒコーキ屋です。でも少し違うのは、そこに僕自身が思ったメッセージを書かせてもらってます」
 早紀は自分の紙ヒコーキを眺め、「私のにも書かれてました」と言った。
「今のあなたにぴったりだと思います」と星矢は穏やかに言った。。
 年齢は二十代半ばだろう、と早紀は思った。童顔で華奢だが、透き通る目が、より一層落ち着きを醸し出し、穏やかな物腰を演出している。
「そうですか?毎日クレーム、クレームで大変なんですよね。しつこいクレーム担当もいるし」と早紀の口から矢継ぎ早に言葉が飛び出、「しつこい?」と星矢が訊ねた。
「そうなんですよ。あまりにしつこくて、上司と一緒に、そのクレーマーの家に何度も行ったんですよ。で、気持ち悪いのは、ずっと私の手を見ながら喋るんです」
 早紀は、蝿を追い払う仕草をした。それを見て星矢が苦笑を漏らし、「その人は、あなたの別の一面を見ているのかもしれません」 
 どこか達観した口調で言った。
 初対面なのに、ここまで話しやすい人は初めてということに、早紀は気づいた。
「そうでしょか」早紀は訊く。
「いずれ答えが提示される日が来るでしょう」四十代のような発言を星矢はした。
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