あの子



沈黙が続く中、破ったのは俺だった。


「もしかして、トラウマ?」


靭帯切るのが恐ろしくて、もうできないとか?


けど違うみたいだ。


どこか影のある表情で、渡島はボールを床に置いた。

とん…



「自分でも、ピンとこないんだ」



めちゃくちゃ悔しそうな顔して、渡島は表情を歪めた。


「バスケ、大好きだし。もっともっと上達して、また全国行きたい。けど―――」

「………」


単調な言葉を並べ、口を一旦閉じる。



「――――怖いんだ。これ以上、何も上達しなかったら」



言葉が見つからなかった。


渡島は本当に、怯えていた。


「好きなことしたい、けど怖い。

 矛盾て言うのかな、これ」


床にあったボールはコロコロコロコロ、蛇行して転がる。


やがて止まったのは、かいの足下だった。



「すまん、探してくれてありがとう」

「…あぁ」



かいは、その後何も言わず、渡島に近付いていった。


かいの気持ちを知ってるから、俺はそのまま第3体育館の入り口から出ようとした。



――――パシン




雨音が激しい。

その中に、一つの音が落ちた。



「何やってんだ!!

 ………お前、何やってんだ………」




かいの声だった。




俺は振り返らず、何も言わず、教室に戻って鞄を取ると真っ直ぐ帰った。



幼なじみが夕食を食べにくるから。





「みんな色々考えてんだなァ」




俺の独り言は、雨音で消された。






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