佐藤君と鈴木君
 自分に絶望しそうになっているオレの心を読んだのか、はたまた考えたことが顔に出ていたのか、鈴木はさっきより少しだけ解りやすく同じことを言った。
「あんな、”さあ読むぞ!”って意気込んで開いた本やのに、数行読んだだけで眠くなったことって、お前ないか?」
「…あー…、あるかも…」
 せやろ、と鈴木は満足そうに笑って、そこが本の不思議なトコやと言った。
「不思議かあ?」
「不思議やろ。だって、”つまんねー”って思った本は放り出してまうけども、”おもろい”って思った本は一気に読んでまうもん」
「うーん…確かに、一気とまではいかなくても、気づいたら半分読んでたってコトならあるなあ」
 やろ?ニンマリと笑った鈴木は、話は終わったとばかりに他の書架へ歩いていく。
 なんとなく置き去りにされた感じのオレは、昼休みの終了のチャイムが鳴るまで近代文学の書架の前でぼんやりと突っ立っていた。

 チャイムの音を聞きながら、本を不思議だと言った鈴木のほうが、不思議な奴だよなと、オレは思ったわけだ。

2008.04.27
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