ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「これはひどいな……。肺炎にでもなったら……」
そう呟くなり、彼はバンリー夫人に向き直ると、きっぱりと告げた。
「この人は今すぐわたしの馬車でキングスリーの屋敷に連れて行きます。彼女には看護と暖かい食べ物が必要です。キングスリー家の者が面倒を見てくれるでしょう。この部屋は……」
嫌悪感を隠そうともせず周囲を一瞥すると、付け加える。
「たった今、すぐに引き払います。彼女の荷物は後ほどキングスリー家に届けてください」
「こ、困りますよ、そんな勝手なことをされちゃ!」
慌てふためいて、声を上げたバンリー夫人を完全に無視し、エヴァンはローズの上にかがみ込むと、毛布で彼女をくるみ両腕に抱きあげた。
厳しい目で彼女を見やり「馬車に運ぶよ」と言うなり、部屋を出てどんどん歩きだす。
そのまま、家の前に止められていた重厚な二頭立て馬車に乗り込んだ。
あっけに取られるバンリー一家を残し、馬車は二人を乗せて走り出した。