ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 エヴァンがローズに覆い被さるような姿勢になった。ローズが必死に彼を見上げる。

「もうやめて! お願いだから……」

 すすり泣くような声に、ようやく彼も我に返った。

 この脆そうでその実まったく頑固な恋人を、少し懲らしめるつもりで始めたのに、気がつくとすっかり我を忘れている。

 彼の眼差しは炎のようで、ローズは目をそらすことさえできなかった。濡れた茶色の瞳に、懇願の色が現れる。

「起きさせて……」

 彼は身を起こしたものの、まだ彼女の頭の両側に手をついていて、彼女に覆い被さる姿勢を解いていなかった。そのままもう一度尋ねる。

「どうしてぼくから逃げるのか、答えてくれ」


「あ、あなたとは、もう一緒にいたくないからだわ! はっきり言わなければわからない?」

 エヴァンの顔がさっと強ばった。

 彼はゆっくりと身を起こすと、ローズが起き上がるのに手を貸してくれる。

 スカートに付いた枯れ草を払ってくれる手には微塵も動揺は感じられなかった。たった今何事もなかったように見事に落ち着き払っている。



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