ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


 馬車は更に東へと進んでいく。突然はっと気付いて声を尖らせた。

「まさか、ロンドンへ連れていくつもりではないわね?」

「残念ながら、そこまでは無理だね。昨夜から走らせ通しで、御者も馬も疲れ切っている」

「話し合う約束はしましたけれど、ロンドンに戻るとは言っていないわ」

「わかってるさ」やれやれという呟きが漏れる。

「だから別荘に行こう。そこなら邪魔が入ることもなく、思う存分話し合える。君の気が済むまで、とことんね」

「それじゃ……、ウェスターへ?」

 その場所での思い出がよみがえり、声が震えた。

 子爵はそんな彼女に目を細めたが、落ち着いた調子で答えた。

「いや、今から行くのはここから一番近いレイクサイド・ガーデンのヴィラさ。あと一時間くらいで着くよ」

「お話するだけなら、その辺りの宿でも十分……」

「言ったろう? 誰にも邪魔されたくないって」
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