ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


「それは、どういう意味かな? さっき君もキスに応えていた。ぼくに会いたくなかった、とは言わせないよ」

 さっと頬をあからめた彼女をじっと見つめ、彼はやや厳しく言葉を継いだ。ローズの唇がかすかに震え始める。

「一緒にはいられないとわかっているのに……。後でもっと辛くなるだけです」

「おやおや、まだそんなことを言い張るつもりかい? もちろんこれからはずっと一緒さ。君が抵抗しようが、無理にでも連れ帰るからそのつもりで」

「だめ! だめです……。子爵夫人、あなたのおばあ様がおっしゃったことは真実だわ。状況は何も変らないのに……」

「祖母が君に? いったい何を言ったんだい?」


 ローズはとうとうあきらめたようにエヴァンを見た。

 エヴァンが彼女を部屋のカウチに引っ張って行き、二人は共に腰を下ろした。

 尋ねるような彼の眼を見上げ、ローズは二人が初めて出会った一年半前の夏を思った。

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