ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 中流階級の婦人達は一般に家庭重視で、お金のために働くのは卑しいこととされていた。

 その中で唯一、世間から認められていたのが、この良家の家庭教師という職だ。

 おかげで競争率はとても高く、新聞広告を出してもなかなか決まらなかった。ましてや十八歳の若さでは、頼りないと思われても仕方がない。

 執事が二階から戻り、

「旦那様がお待ちでございます。こちらへどうぞ」と言われたので内心驚いた。

 子爵様が御自分で面接なさるの? 

 だが顔には出さず、後に続き階段を上がっていく。案内されたのは大きな書斎だった。

「ミス・レスターでございます」と言いながら、執事が彼女を残して出ていくと、部屋の奥に置かれたマホガニーの机に向かって、何か書き物をしていた男が顔をあげた。
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