ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
旦那様、と言うから年配のいかめしい老紳士を想像していたのに、その人はまだ青年のように見えた。
少しカールした長めの黒髪に、目はサファイヤのような濃いブルー。彼女が初めて見るような精悍で男らしい、とても整った顔立ちをしている。
襟元を少しゆるめた白いシャツから、滑らかな肌が覗いている。長い指にペンを持ち、手紙を書いている最中らしかった。
この方が、ウェスターフィールド子爵様?
彼も、少し驚いたようにしばらくじっとこちらを見ていたが、やがて椅子から立ち上がると儀礼的に座るようにと促した。もう一度机に向かいながらソフトな声で言う。
「来るタイミングがあまりよくなかったね。実は今すぐ仕あげたいものがありましてね。少々、お待ちいただけますか」
ローズはうなずいて安楽椅子に腰を下ろし、気付かれないように書斎を観察し始めた。
壁には彼の先祖らしき人物の肖像画がかけられ、収集に何代もかけたと思われる革表紙の本が書棚いっぱいに並んでいる。
その中に以前から読みたくてたまらなかった本を見つけ、彼女の目が輝いた。だが、ふいに声がかかったので、驚いて飛び上がりそうになる。