◇桜ものがたり◇

 祐里は、お屋敷に世話になった日の事を思い返していた。


 ………黒い喪服を着た人たちが行き来し、

 祐里は、ひとり、部屋の隅に座っていた。

 いつの間にか隣に光祐さまが座って、

 「ゆうり」と優しく微笑んで、手を握ってくださった。

 福祉施設に行く予定だったのに、

 光祐さまは、その手をお離しにならなかった。

 その姿をご覧になられた桜河の旦那さまと奥さまが、

 光祐さまの遊び相手にと、祐里を引き取ってくださった。


 奥さまは、光祐さまの出産後に体調を崩され、

 子どもの産めないお体になられたらしく、

 お二人は、祐里を実の子と同じように育ててくださった………。


 祐里は、ご厚意に感謝しながらも、遠慮して甘えられないでいたが、

 誰もが「桜河のお嬢さま」と疑わない気品と

 優雅な雰囲気を持ち合わせて育っていた。

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