◇桜ものがたり◇

「紫乃、着替えをお願いします。

 それから、こちらの紅茶の染みは取れるかしら」

 薫子は、美和子のスカートの染みを指し示す。


「お嬢さま、こちらへお着替えくださいませ。

 ブラウスとスカートは明日までに綺麗にいたします。

 どうぞ、紫乃にお任せくださいませ。」

 紫乃は、穏やかに微笑み、衝立の後ろへ美和子を案内した。

 紫乃の染み抜きの腕は、神技そのものだった。 


「ありがとうございます」

 美和子は、衝立の後ろで、渡されたワンピースに着替える。

 微かに甘い香りがした。

 美和子は、香りを嗅ぐと、自分の率直な行動が、恥ずかしくなった。


「祐里さんのワンピースがよくお似合いでございますわ。

 美和子さん、着替えたお洋服は、紫乃に渡してくださいね。

 それから、紫乃、お食事をお願いします」


「はい、奥さま」


 美和子は、紫乃に頭を下げて、ブラウスとスカートを渡す。


 いつも鮮やかな濃い色の洋服を着る美和子は、

 祐里の淡い若葉色のワンピースに違和感を抱きつつ、

 何故だか攻撃的で才女を気取る自分が、

 優しい気分になっていることに驚く。

(洋服は、持ち主の雰囲気に纏った者を染めるのかしら)

 
 美和子は、創業記念パーティで、

 二度ほどみかけた祐里の慎ましやかな美しさを思い出していた。


 控えめでありながら薫子の優雅さに劣らず、

 自ずと祐里の周りには、人が集まっていた。

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