◇桜ものがたり◇
ようやく、食後の苺と珈琲が運ばれてきた。
祐里が珈琲を飲干して、ほっとしたのも束の間、
旦那さまからの提案があった。
「祐里、文彌くんを自慢の日本庭園に案内しておくれ。
文彌くんと将来のことを二人で歓談してきなさい」
旦那さまは、会食をしながら、
饒舌な文彌と静かに受け答えをする祐里を眺めて、
良縁に満足していた。
「父上さま、私がご案内いたします」
光祐さまは、思わず声を発していた。
「いや、光祐は、邪魔をせず、
ここで榛様から経済界のお話を聞かせていただきなさい」
旦那さまは、見合いの二人に気を利かせて、
立ち上がりかけた光祐さまを制した。
奥さまは、旦那さまの強引さに表情を曇らせる。
「はい、畏まりました、旦那さま」
祐里は、落ち着かないまま返事する。
光祐さまは、長卓の下で、
不安げな表情の祐里の手を優しく握って頷くと、文彌を睨みつける。
文彌は、不敵な勝ち誇った笑みを光祐さまに返した。
奥さまは、光祐さまが長卓の下で、
祐里の手を握って慰めている様子に気付いて、
新たな衝撃を受けていた。
祐里は、光祐さまの優しい手の温もりに元気付けられて、
旦那さまの言いつけには逆らえずに、仕方なく、
洋館の玄関から、日本家屋の前に広がる荘厳な日本庭園へ
文彌を案内する。