◇桜ものがたり◇

 その晩、

 祐里は、なかなか寝付けなかった。

 瞳を閉じると、大蛇のように凝視する文彌の眼(まなこ)と

 光祐さまの優しい笑顔が交互に現れる。


 ようやく明け方になって、うつらうつらした時に夢を見た。


 ………暗闇から大蛇がしゅるしゅると忍び寄り、

 祐里の身体に巻き付いた。

 ひんやりとした感触が祐里を暗黒の奈落へ引きずり込んでいく。

 祐里は、ぎらぎらとした大蛇の視線を目の当たりにして恐怖に駆られ、

 必死に「光祐さま」と声をあげて助けを求めた。

 そこに一筋の光が差し込んで、桜の花弁がひとひら祐里の黒髪に舞い降りた。

「祐里」と光祐さまの優しい声がした途端に、

 暗闇と大蛇が掻き消え、

 祐里は、青空に輝くの桜の樹の下に佇んでいた………。


 祐里は、目を覚まして

 「光祐さま」

 と呟いて寝返りを打ち、

 再びうつらうつらと夢に引き込まれていった。



 そして、場面は父母を亡くした日へ移っていった。


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