◇桜ものがたり◇

 祐里は、光祐さまから褒め言葉を賜って、喜びを感じつつ、

 光祐さまの掌の傷に気付いて、慌てて掌で包み込む。

 光祐さまの傷口からは、悔しさと深い愛情が痛いほどに感じられた。


 祐里の慈悲深い心が光祐さまの傷口を少しずつ癒していった。


「旦那さまは、榛様との御縁組をお慶びでございます。

 祐里は、旦那さまの仰せの通りにいたします。

 でも、祐里は、いつまでも光祐さまのお側に居とうございます」

 祐里は、涙を湛えた瞳で真っ直ぐに光祐さまを見つめて、

 愛情が心から溢れだすのを感じる。


「勿論だよ。ぼくの大切な祐里、いつまでもぼくの側に居ておくれ」

 光祐さまは、しっかりと祐里を抱きしめて、優しく祐里の黒髪を撫でながら

(大切な祐里を誰にも渡しはしない)

 と心に誓う。


 文彌に渡すくらいなら、今すぐにでも無垢な祐里を抱いてしまいたかった。

 それでも、立派な男として祐里を守る立場にない学生の自分に、

 未だその資格はないし、何よりも祐里が大人の女性に成長するまで、

 大切にして待ちたいと思っていた。


 現に、祐里は、安心しきって自分に抱(いだ)かれている。


 光祐さまは、これほどまでに大切にしている祐里に、

 初対面でくちづけを迫る文彌に対して不信感を擁(いだ)いていた。

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