◇桜ものがたり◇

 朝食を終えると、旦那さまは、即刻、光祐さまを書斎へ呼ぶ。


「光祐、私に何か言いたい事があるのならば、

 はっきりと口に出して言いなさい。

 三年ぶりに家族が揃ったというのに、昨日からずっとそのしかめ面だ。

 母上は、実家に帰ってしまうし、奉公人達の様子もどことなくおかしい。

 祐里のめでたい縁談の何処が気に入らないのだ。

 快く承諾した祐里まで、皆に縁談を反対されて、沈んでいるではないか」

 旦那さまは、腹を立てながらも、先ずは光祐さまの意見を聞くことにした。


「父上さまは、十五にしかならない祐里の縁談をどんどん進められて、

 あまりにも強引です。

 祐里が沈んでいるのは、嫁に行きたくないからです。

 父上さまの仰せに祐里が逆らえるとお思いですか。

 結婚はとても大切なことですよ。

 祐里の気持ちを考えておられるのですか」

 光祐さまは、真っ直ぐに旦那さまを見つめ、熱心に訴える。

 光祐さまも、奥さま同様、厳格な旦那さまへ意見するのは、

 初めてのことだった。

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