◇桜ものがたり◇
「はじめまして、鶴久結子(ゆうこ)でございます。
ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。
息子が桜河さまのお嬢さまと親しくさせていただいきまして、
ありがとう存じます。
早速、お近づきになれて光栄でございます」
いつの間にか、柾彦の後ろに母・結子が立っていた。
シルクタフタの多彩なドレスを身に纏った結子は、
真珠の長い首飾りをつけ、モダンな雰囲気を醸し出していた。
それとは打って変わり、奥さまは、真珠色地に
紫陽花文様の着物姿で、帯留めに真珠をあしらい、
しっとりとした美しさを見せていた。
「こちらこそ、はじめまして。桜河薫子でございます。
祐里さんが親しくしていただいているようでございますわね。
よろしければ、お近づきの印に、
次の日曜日にお茶にいらっしゃいませんか」
「まぁ、ありがとうございます。嬉しいですわ。
お言葉に甘えて伺わせていただきます」
「お待ち申し上げております」
奥さまと結子は、一瞬のうちに気が合って、
柾彦と祐里のことを忘れて、世間話を始める。
「母上の長話に付き合っていたら夜が明けてしまうからね。
姫、あちらで何か飲み物をいただきましょう」
柾彦は、結子に聞こえないように祐里の耳元で囁く。
祐里は、頷いて柾彦に従った。
「祐里さんと、あちらで飲み物をいただいてきます」
柾彦は、結子と奥さまに断って、瞬時に祐里の手を取り誘導する。
祐里は、素直に柾彦に従った。
柾彦は、林檎の果汁を二つ取り、
傍らの長椅子に祐里を掛けさせてから、隣に腰かけた。