◇桜ものがたり◇

「びっくりしたなぁ。

 姫の母上さまにお会いして緊張したところに、

 母上まで登場してくるのだもの」

 柾彦は、母・結子が、桜河の奥さまと、親しくなる事の展開に、

 ほっとしていた。


「私も驚きました。

 柾彦さまのお母さまは、とても優しそうなお方でございますね」

 祐里は、柾彦の快活さは母親譲りだと感じていた。


「姫の母上さまだって優しそうだし、姫に似てすごく綺麗な方だね」

 柾彦は、奥さまと祐里の雰囲気が、血は繋がっていなくとも、

 よく似ていると感じた。


「奥さまは、私の理想の方でございますもの。

 柾彦さま、私は、桜河のお屋敷でお世話になっておりますが、

 実の娘ではございませんの。

 本当は、このような晩餐会に参会できる立場ではございませんし、

 柾彦さまと親しくお話しさせていただける立場ではございません。

 先程は、あの方の非礼な言葉に気分を害されましたでしょう。

 私のような者のために申し訳ございませんでした」

 祐里は、柾彦に誤解されたままでは申し訳なく思い、

 真実を話して深々と頭を下げて謝る。

 柾彦には、隠し立てをしたくはなかった。

< 89 / 284 >

この作品をシェア

pagetop