世界を滅ぼしかねない魔王に嫁いだお姫様。
―――…「準備はできた。もうすぐ、必ず会いに行く」
また…、むかし聞いたことあるような、懐かしい声。
落ち着くような、低い声。
―――ダメ。思い、出せない
「――…さま、姫様。」
「……ンッー、また、あなた。」
「私以外の者は入れませんからね。」
姫様は私の部屋のベッドの上で眠っていた。
《…どおりで他の使用人に見つからないわけだ。》
私は姫様の、陶器のようにすべらかな足を大胆に出しているドレスを直し、ベッドの縁に座らせ、ひざまづいて、靴をはかせた。
姫様は眠たそうに目をこすった。
「…なぜ、いるの?準備で忙しいと聞いたわ。」
「姫様がいなくなられたと聞いたので、それどころではなくなりました。」
「――…そう、」
「……成人の儀の御準備をなさって下さい。もう、時間がありません。」
姫様は漆黒の長い髪を揺らし、よろよろしながら立ち上がり、私をよけドアまで歩いた。
「……出なきゃだめ?」
ふと立ち上がり、後ろを振り返ると、ドアところで私に背を向けたまま、どこか寂しそうに訊ねてきた。