ポケットに婚約指輪


 司さんとの関係が進展したその日から数日後の週末、私たちは二人で買い物に出ていた。


「だから、指輪買ってやるってば」

「いいです。あの指輪で」

「あれは前の彼女の為に選んだものだし。それを菫にやるのはなんか違う気がする」

「でも、あれが無かったら私と司さん付き合ってないですもん。捨てるなんて嫌です」

「じゃあしまっておけばいいじゃん」

「それも勿体無くないですか? こんなに綺麗なのに」


 あの婚約指輪は私の指にもぴったりで、試しにはめてみたら司さんにものすごく嫌な顔をされた。

以前はこの指輪から連想してしまう元婚約者さんに嫉妬したこともあったのに、気持ちが通じ合えたって思えてからはこの指輪が愛おしくて仕方がない。


“このままつけてようかな”

“もう捨てろよ”


そんな問答を散々繰り返した後、彼はため息を吐き出しつつ私をジュエリーショップに連れてきたのだ。


「じゃあ、指輪じゃなくてもいいから。とにかくなんか選んで。俺のものだっていう証拠に」

「それならネックレスがいいです。会社でもつけられるし」


ウキウキしながらガラスケースを見る。

ダイヤモンドでお花をかたどったものや、小ぶりだけどペリドットがあしらわれているものもある。
こんなのもいいなぁって思うけど。

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