ポケットに婚約指輪
「刈谷先輩に頼まれたんです。人数足りないから出てって」
「断ればいいでしょ。刈谷さんのこと、もう怖くないんじゃなかったの」
「怖くは無いんですけど。……実は、その。私刈谷先輩には本当のことを教えてしまっていて。バラされると、舞波さんや江里子に申し訳が立たないんです」
「は?」
不快そうな顔に、更に嫌そうな色が重なる。
今日は酔っているからかな、いつもより表情が豊かな気がする……なんて、のんびり観察している場合では無いのだけど。
「実は、昔舞波さんと付き合ってたことも刈谷先輩にちゃんと全部伝えたんです。それでも、誰にも言わないと言ってくれたんですけど」
「……なんで言ったわけ? 俺がせっかくあの時誤魔化してあげたのに」
「舞波さんと江里子にとっては、あの嘘は必要な嘘かなって思うんですけど。刈谷先輩には違うかなって思って……しまって」
司さんの視線が怖い。声が先細っていってしまう。
「で?」
「来なきゃわかってるよね? ……みたいなことを言われてしまって」
瞼を閉じると浮かんでくるのは満面の笑みの刈谷先輩。悪意は無い、……そう信じているけれど、絶対言いふらさないと断言もできない。
司さんは溜息とともに髪をグシャグシャとかきあげる。濡れた髪が蛍光灯の光に反射してなんだか色っぽくみえる。