ポケットに婚約指輪

私はそのメールを削除し、午後から作成する書類の準備をした。

仕事に没頭したい。
余計なこと考えたくない。

だけど頭からは抜けてくれない。

あれだけ傷つけておいて。
いいように私を扱っておいて捨てたくせに。

それでもまだ私に可能性を見せ続けるの?
貴方はどれだけずるい男なの。


 過去の資料を見るために資料室へ入る。

天井近くまでの高さの棚には、種別ごとのファイルがきちんと整理されている。

コンピュータが主流の時代でも、こうした紙ベースの資料はちゃんと保管されているものだ。
古い紙の匂いが、どこか懐かしく感じる。


今は誰もいないようで、私は人目から開放されてホッとした。


「……はあ」


途端に、漏れ出すのはため息と一筋の滴。


「……っ」


私はまだ泣けるのか。
あんな男の為に。

私はまだ期待するのか。
嘘をつき続けた男の言葉を。

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