ポケットに婚約指輪


「ほら、大丈夫? そんなに飲んだかなぁ。ワインボトル3分の1だよ?」


言われてみれば、酔いつぶれるような量は飲んでない。
私は雰囲気に酔っただけなのかもしれない。

現に外に出て夜風に当たるとずいぶんすっきりしてきて、支えられなくても歩けるようになってきた。


「大丈夫です。歩けます」

「そう? 気持ちは悪くない?」

「すっきりしてきました。風がいい気持ち」


それから、里中さんが連れてきてくれたのは雑居ビルの2階にあるコーヒー店。入った瞬間から香ばしい香りに包まれた。


「ミルクとか入れる人?」

「はい」

「じゃあ、カフェオレでいい?」

「はい」


彼の質問にイエスと答えていくだけで、全てが決まっていく。

目の前にはおいしいコーヒーと格好よくお話し上手な男の人。
分に合わない環境に、なんだか居心地が悪くなる。

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