ポケットに婚約指輪
「どっちみち君の中では終わってないんだろ? まだ彼が好きなんだ?」
「そんなことないです」
「そうでなきゃ俺のことを見抜いたりできないよね」
物腰は優しいのに追い詰められてる気分になる。
刈谷先輩もいたときは、そんな事なかったのにどうしてだろう。
「里中さんは、……指輪の彼女とは婚約までしてたんですか?」
仕返しのつもりで切り返す。すると一度目を見張って私を見た。
「そうだよ。婚約してたことまで知ってるのは何でかな?」
「う、噂でです」
「そんなに噂になってた? それは恥ずかしいな。婚約者に逃げられるような男だなんて、営業としては最悪な汚名だけど」
目の前で男の人に落ち込まれるのは焦る。しかも自分の言葉が原因だとすればなおさら。
「や。違います。そんなに噂にはなってません。刈谷先輩が言ってたのを聞いちゃって……」
私の弁明がまだ途中のうちに、里中さんが吹き出す。
けらけら笑うその顔を見ていて、頭に血が上ってきた。