ポケットに婚約指輪


「どっちみち君の中では終わってないんだろ? まだ彼が好きなんだ?」

「そんなことないです」

「そうでなきゃ俺のことを見抜いたりできないよね」


物腰は優しいのに追い詰められてる気分になる。
刈谷先輩もいたときは、そんな事なかったのにどうしてだろう。


「里中さんは、……指輪の彼女とは婚約までしてたんですか?」


仕返しのつもりで切り返す。すると一度目を見張って私を見た。


「そうだよ。婚約してたことまで知ってるのは何でかな?」

「う、噂でです」

「そんなに噂になってた? それは恥ずかしいな。婚約者に逃げられるような男だなんて、営業としては最悪な汚名だけど」


目の前で男の人に落ち込まれるのは焦る。しかも自分の言葉が原因だとすればなおさら。


「や。違います。そんなに噂にはなってません。刈谷先輩が言ってたのを聞いちゃって……」


私の弁明がまだ途中のうちに、里中さんが吹き出す。
けらけら笑うその顔を見ていて、頭に血が上ってきた。

< 68 / 258 >

この作品をシェア

pagetop