好きと言えるその日まで
 *


 なんだか遠い世界に飛んで行ってしまいそうな葛西を止めるべく、両肩をガシッと掴んで視線を合わせてから俺の意見を口にすると、葛西は間の抜けた顔でぽかんと口を開いた。


 その抜けた表情が笑えるけれど、どこか気が抜けて肩の力も抜けた。


 本当は……草野球、という簡単なものではなくなってきていた今日の試合。


 先輩同士のかねてからの因縁の対決が、なぜだか俺らの代にまで降りかかってきて。


 単なるお遊びだったはずが、結構マジな試合になりつつあった。


 場所だって、こんな豪奢な場所じゃなかったはずなのに、先輩らの因縁が絡んできてこんなことに発展してしまった。


 近くで見てもらうことが出来たらよかったけど、下にいることでピリピリしたムードに葛西を巻き込みたくはない。


 おまけに、先輩らの因縁の対決のはずなのに、やるのは本人らじゃなくて後輩の俺らなんだから堪ったもんじゃない。


 とは思うものの、今までのお世話になったあれこれを考えると簡単に反発も出来ず。


 とにかく俺らの中だけでも、普通に野球を楽しもうという気持ちを持とうって決めたわけだ。


 そんな妙な柵(しがらみ)に巻き込んで申し訳ないな……なんて思っていたら、いつの間にか掴んでいた肩がなくなっていて、気が付いたら白いタオルが目の前に出されていた。


 真っ白で、見ただけで吸収力のありそうな、ふわふわしたタオル。


 素直でまっさらな葛西みたいだ、なんて恥ずかしくも思ってしまったそれを無言で突き出されて、それを戸惑いながら受け止めた。


 「コレ、なんですけど」

 「あぁ―――」

 「使って、くれますか?」



 懇願するように、なぜかそう問う葛西に無言でコクリと頷いて、小さくありがとうと礼を述べるとはにかむような笑顔が返ってきた。


 なぜかその表情にドキッとする。


 ―――なんだ、これ……?


 自分の胸に沸き起こった一瞬のそれに焦った瞬間。


 西村ー! と呼ぶ声が聞こえて、俺は慌てて走り始めた。



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