好きと言えるその日まで
 *


 試合に夢中になっていてすっかり忘れていた葛西を、試合の中盤になって気がついてスタンドを見上げた。


 ―――はぁ? なんであいつが?


 俺とは仲の良い、進藤が葛西の隣にいた。


 進藤は先日学校で足を打撲したとかで、今は無理したくないからと今回の試合は辞退している。


 観戦だけと言って来たけど……なんで葛西の横?


 なんとなくイラッとしてすぐに上がろうかと思ったけれど、そのタイミングで後輩に呼び止められた。


 呼び止められたはいいけど、俺じゃなくてもいいだろその質問、みたいなことで余計にイライラが増す。


 いつも苛立ちが表に出ないようにと気を付けているのに、どうやらイライラしてるのが表に出ていたようで慌てて後輩が離れて行った。


 ―――ったく、葛西のせいでなんで俺が。


 イライラする自分にも、させる葛西にもムカついて堪らない。


 気にしているのが露わになるのも癪で、わざとらしくゆっくり大股で歩いて近づいた。


 近づくにつれて聞こえる微かな笑い声と、進藤が呼ぶ『友香ちゃん』という言葉。


 いや、別にあいつの名前だから呼べばいいと思う。


 けど、何を易々とあいつは名前を呼ばせてるわけ?


 なんて思ってしまう自分もいて、それも違うだろう俺、なんて突っ込んでしまう。


 そんな俺の心中を余所に、耳に飛び込んできた話のせいで慌てて走ることになった。 


 「じゃあ、捨てます」

 「いや、友香ちゃん。何も捨てなくてもいいじゃん。あ……じゃあ俺食ってやろうか?」

 「え……?」

 「捨てるのは勿体ないしさ。俺、育ち盛りだからそれぐらい食べてもまだ食べれるから」

 「でも」

 「いいよ。折角作ったのに」


 そう言って、葛西の持つ何かに手を出した進藤。


 俺は何となく深くは意味を理解しないままに、ものすごい勢いで走って差し出そうとする葛西の手と『何か』を掴んだ。


 そして、そのまま勢いで怒鳴った。


 「勝手に俺の渡してんじゃねーよ、友香!」



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