いつか君に届け
悲しき過去
『もう凄いんだよ。まだ年中さんなのにしっかりした口調だし。小学校受験する子ってやっぱりなんか違うよね。大人顔負けって感じって慶太郎?慶太郎!聞いてる?』

『あー。うん。聞いてるよ。小学校受験でしょ?大変だよね。でも幼稚園児だって恋をするんだから千佳先生を好きな子もいるかもね』

『ねぇー慶太郎はお母さんはいないって言ってたけどいつ亡くなったの?』

『えっとー小学校卒業間近のまだ6年生かな。卒業式に俺は出なかったから俺がまともに卒業式に参加出来たのは大輔達と同じ中学だけだね。最初で最後の卒業式は中学校だけだ。俺ほんとにまともじゃないね。もしかしたら中学も危うくかったから大輔がいなかったら俺は人生で卒業式ってやつを体験する事なかったかも知れないね』

『何が危うかったの?中学校なんてみんな卒業できるでしょう?』

『まあそうだね。普通に生活していれば。卒業式に参加出来ないなんて心配はいらないよね。俺達悪い事してたからね。俺は千佳みたいに真っ直ぐいい子に育ってこなかった。ごめんね。こんな俺で。千佳には俺みたいなクズよりエリートが似合うんだろうな』

『何よそれ!付き合って好きにさせといて今さらそんなこと言わないでよ!何?慶太郎は別れたいの?好きな子ができたの?』

『違いますよ。千佳が大切だからこそ俺なんかでいいのかなって自信ないだけだよ。ごめん。余計な事を言ったね。俺頑張るから』

『慶太郎!来月誕生日じゃない。夜はお店なのはわかってるけどお昼にちょっとだけパーティーしようよ。私、代休取れるんだけど』

『いいよ。仕事を休んでまでする事じゃないじゃん』

『いいじゃん!どっかで使わなきゃいけないんだったら慶太郎の誕生日をお祝いしたい。19歳だよ。10代最後の誕生日じゃない。お祝い2人でしよう!』

『千佳!本当にごめん。俺におめでとうって言わないで。10代最後だろうが何だろうが関係ない。おめでとうなんて聞きたくない。ごめんね。ごちそうさま。俺シャワー浴びてくるよ』

『慶太郎?どうして?なんでそんなに哀しい顔するのよ?私には言えないの?』

『ごめん。言ったじゃん。俺はクズだって。だから俺はお祝いしてもらえるような人間じゃないんだ。だから誕生日なんかどうでもいいんだよ。店でくだらねーぐらい言われるんだから千佳は言わないで。俺におめでとうは言わないで欲しい。聞きたくないんだ。ごめんね』

ごめんな千佳。俺は千佳を幸せにする自信がないよ。俺なんかと付き合ってていいのか?君にはもっと相応しい人がいるんじゃないかな。俺なんかと居ても君を傷つけるだけだよ。君は俺にとって遊びで付き合える女じゃない。だからこそ俺は自信を無くしてしまう。

『はい!あっ!大ちゃん。久しぶりだね。慶太郎はシャワー浴びてるよ。中で待ってたら?コーヒー入れようか?』

『あー。ありがとう。何?慶太郎と喧嘩でもしたのか?元気ねーじゃん』

『ううん。喧嘩じゃないよ。大ちゃん!慶太郎にいったい何があったの?大ちゃんは中学から慶太郎を知ってるんでしょ?どうして慶太郎の誕生日におめでとうって言っちゃダメなの?どうして慶太郎はあんなに哀しい顔をするのよ!教えてよ!大ちゃん!』

『ごめん千佳。俺も知らないんだ。慶太郎は中2の時に俺達の中学に転校してきた。それ以前の事は知らねーしあいつは言いたくなさそうだから俺も聞く気はない。誰にだって知られたくない過去はあるだろ。悪いな千佳。力になれなくて。ただあいつは生きる事に絶望しているって事だけはわかる。俺がわかるのはそれだけだ』

『ごめん大ちゃん。私じゃ慶太郎を癒せる気がしないよ。大ちゃんは慶太郎は変わったって言うけど私じゃ無理なんじゃないの?』

『無理かどうかは千佳が決める事だけどあいつが本気になった女は千佳しかいない。千佳だからそんな顔も見せれるんじゃないか?興味のない女にはそんな顔見せたりしねーよあいつ』

『おう。大輔!はえーな。もうちょっと待って。着替えるわ』

『あー。お前今日アルテミスの方回ってくれよ。今月の売り上げアルテミスはちょっと頑張らないとキツイぞ。使えねー奴が多過ぎるだろ!人件費の無駄だ!』

『まあまあそう言わず。俺が稼ぎますよ。言っても赤出してないんだからいけんじゃん』

『毎月このまま順調だと言う保証はない。無駄は省くべきだ!お前!甘すぎるぞ!慶太郎!』

『そうっすね。まあ俺が頑張るからちょっと様子見よう。キルのは簡単だろ。大輔の方が指導うまいんだからきっちり育ててくれよ』

『いくら俺でもやる気のない奴、不向きな人間は指導でどうにかなるわけねーだろ!』

『わかったって。だからもうちょっと様子見りゃいいじゃん。俺がそいつらの人件費稼いだらいいんだろ?俺は自分から辞めるって言わない限りはやらせる』

『早くしろ!もう行くぞ!』

『はいはい。ちょっと待ってよ。千佳!俺の時計どこ?』

『え?知らないよ。いつものとこに置いてないの?慶太郎はあっちこっちに置かないでちゃんと決めた場所に置かないから探さなきゃいけなくなるんでしょう!寝室は?』

『はい。すいません。あっ!あった。じゃあ行ってくるね。キスしていい?』

『えっ?ちょ、ちょっと大ちゃんいるじゃん!』

『見てないじゃん!そんなの気にするの?』

『あのね慶太郎くん!普通の子は気にするんです!ホストは気にしないのかも知れないですけど』

『何怒ってんの?怒らなくてもいいじゃん!じゃあ行ってきます!』

『行ってらっしゃい!慶太郎!気をつけてね!』

『うん!わかった!鍵しめときなよ』

『うん!』

慶太郎!あなたにはどんな過去があるの?それは誰にも癒される事がないの?そんなの悲しいよ。私が慶太郎の誕生日をお祝い出来る事はないんだね。おめでとうって言わないでってそんな顔して言われたら辛いよ。

『慶太郎!お前どこの進学校から転校してきたんだっけ?』

『はあ?何を今さら。忘れたよ』

『お前忘れたと覚えてないってとぼけるの得意だな!まあ大半は本気で忘れてるけどな』

『なんだよ!なんで大輔まで俺にからむわけ?もう俺の過去なんかには触れてほしくないんだよ。まあ懐かしい想い出とかは自分の中だけで大事にしまっておきたいって事もあるだろ。それと同じだよ』

『お前の場合は悲しき過去だろ。まあ俺も触れてほしくないからお前の気持ちはわかるけどな!コンビニ寄っていくか?』

『あーそうだな。タバコと栄養ドリンクでも買っときますか。なんかすでに疲れてんだけど』

『運転手は俺だぞ!俺の方が疲れてるよ!』

『同じマンションなんだから一台で行きゃいいじゃん!代行だって2台分だったら経費の無駄っすよ!』

『代行と人件費どっちが無駄だと思ってんだよ!』

『はいはい。すいません。俺が悪かったです。俺が買ってきますから。機嫌直せよ』

大輔だって過去を話さねーじゃねーかよ。お前にも見えない闇がある事を俺だって中学から知ってるよ。お互いそれがわかってるって事だけでいいんじゃねーの。言葉でどうにかなるわけでもないんだから。話したら無かった事になるのかよ?ならねーだろ。だからお互い触れない。それでいいじゃねーか。傷がある事をお互い知ってるだけで充分だろ。大輔!お前も俺と同じように話して無かった事にはならないから話さないんだろ。だから俺も聞かない。それも優しさなんじゃないの?俺は大輔からそれを教わったんだよ。
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